過去最強に層の厚いメンバーと新鮮で熱い気運を、今回のプロジェクトにもぜひ活かしてほしいとの朝礼での所長の挨拶に皆、背筋が伸びる思いでした。
例の詩の作者探しに追われていた私も、週が明け職場に戻ると自然に仕事のスイッチが入ります。《聖月夜》の作者・留萌雅也探しはひとまずお休みということになりました。
浜村さんも、「短い間にここまでたどり着けたのですから、あとはゆっくり留萌さん探しをしましょう。
あまりに早くすべてがわかってしまっては、私の楽しみがなくなりますからね」と、笑って言ってくれました。
今回のプロジェクトは、先日接待した某大手企業水戸支店の依頼で、既存の石材ではなく何か目新しい素材を使って、年明けに完成予定の新社屋のエントランスに設置する左右一対のモニュメントを製作してほしいということでした。
「石英も玄武(げんぶ)も使えないとなるとどうするかなぁ」所長もさすがに悩んでいるようでした。費用に糸目はつけないとの先方からの申し出でしたが、だからと言ってすぐに最適な素材が見つかるとは限りません。
しかし、もしこのプロジェクトに成功すれば、わが月ノ石営業所だけでなく大同石材自体のネームバリューも高まることは間違いありませんでした。
所長の並々ならぬ意気込みとともに、何としても失敗はできないという重責が私たちメンバーにもストレートに伝わってきました。
「私は鉱物学を学んでいた時の教授に連絡を取って、新しい鉱物の情報がないか聞いてみます。皆さんもできる限り速やかに情報を集めてください」
所長の言葉で第一回ミーティングは終了しました。
「負けられない」と私は思いました。
一年後に本社に戻ることが決まっていても、ここ月ノ石でも確かな軌跡を残したい。そのためには今回のプロジェクトをなんとしてもいい形で成功させたい。
それは自分だけのためではなく、一つの目標に取り組む喜びや素晴らしさを教えてくれた月ノ石営業所のメンバーたちのためでもありました。
さて、どうすればいいのか。
今までにない斬新な素材をなるべく早く見つけて、ガンちゃんにデザインを起こしてもらわなければ……何かいい素材はないか、私がデスクでパソコン検索をしていると田沼さんが近づいてきました。
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