第一部 佐伯俊夫
第二章 進展
私は住所の部屋番号をもう一度確認しました。エントランスのメイルボックスの二〇二号室を探すと「元吉(もとよし)」と書いてあります。私はエレベーター脇の階段で二階に上がり、上がったところのすぐ右にある二〇二号室のブザーを押しました。
「はい、どちら様でしょうか」
綺麗な女性の声が答えてきます。
「佐伯と言います。突然で申し訳ありません。浜村館長はご在宅でしょうか?」
私が言うと、
「少々お待ちください」
女性がインターフォンを離れた様子が察せられ、しばらくして、ドアが開きました。出てきたのは浜村さん本人でした。
「佐伯さん、よくお越しくださいました」
「浜村さん、お加減はいかがですか? 先ほど資料館に行きましたが、受付の方に先週末からお休みされていると伺って」
「佐伯さん、約一週間のご無沙汰です。大したことはないのですが、何しろこの年です。娘が心配して休め休めとうるさいものでね」
浜村さんは確かに思ったよりはお元気そうでしたが、少し疲れているようにも見えました。
「さあ、どうぞお入りください」
「突然ですみません。ご住所しかわからなかったので」
「いいえ、今日はあなたがお見えになるような気がしていましたよ」
浜村さんはすでに何かを察したような面持ちで私を誘導しました。
浜村さんの娘さんの奈美子さんは、四十代半ばくらいでしょうか、お父さんに似て上品で物腰柔らかな雰囲気の方です。
「父から話を聞いていました。どうぞゆっくりなさっていってください」
「突然すみません」
「良い相棒ができそうだと、父が先週から上機嫌でして。いったい何をやっているのか、夜遅くまで調べ物をしたりして、無理がたたったようです。四日前から微熱が出てしまって」
奈美子さんはどうやら《聖月夜》の詩のことはご存じないようです。
「今日わざわざお見えになったということは、何か進展があったと思っていいのですよね?」
奈美子さんがお茶を淹れるために去ると、浜村さんは早速私に聞いてきました。