第一部 佐伯俊夫
第二章 進展
春子さんが得意げに差し出した小さな紙きれのようなもの……そこには、
週刊風神記者 留萌雅也(るもいまさや)
「これは!」
私も驚きを隠せずに古い名刺に見入りました。
「主人の蔵書の隙間に紛れ込んでいたの。うちの人、本が好きでね。あたしは全然読まないからどうしようかと思いながら処分もできなくて。でも佐伯さんが探している人の手掛かりが見つかるかもと、ちょっと出してみたのよ。何も出てこなければ、これを機に古本屋に売るなり何なりしようと思っていたら」
春子さんはその時の再現をするように、
「本と本の間から、この名刺が、ぽろっと落ちてきたの。まるで探し物はこれですよ、とでも言っているみたいに」
留萌雅也……
るもい、まさや……
この人が《聖月夜》という詩を書き、《十六夜の会・第七節》に名前を伏せて投稿したのだろうか?
「いったん名前がわかったら、そうだ、主人が留萌さん、留萌さんと話のたびに言ってたっけ、と今になって思い出してきたのよね」
「その留萌雅也さんは今どうされているのでしょうかね」
三十三年前の一九八五年、昭和六十年に私と同じくらいの年齢でこの町を訪れていたとしたら、二〇一八年の現在、留萌雅也はすでに六十歳を過ぎているはずです。
「あたしにわかったのはそこまで。この名刺に勤め先が書いてあるから、そこに問い合わせてみたらどうかしら」
自分の役目は終わったとばかりに、春子さんは留萌雅也の名刺を指差して私を促しました。留萌雅也に会ってみたい。そして《聖月夜》の詩について、本人に直接聞いてみたいという強い欲求が私を突き動かしました。
「週刊風神か」
その週刊誌の名前はどこかで聞いたことがあったような気もしたのですが、見かけたことはありませんでした。
「あたしも読むのはもっぱら女性週刊誌で、こういった硬派の週刊誌には詳しくないから」
春子さんも知らない様子でした。
「取り敢えず、この電話番号にかけてみますか」
私は名刺に書かれた連絡先の電話番号を携帯でプッシュしました。しばらくの無音ののち、
「おかけになった電話番号は現在使われておりません」との無機質なメッセージ音声が流れてきました。
「ちょっとネットで検索してみますね」
私はスマホで《週刊風神》を検索しました。すると、