社長は俺にクビを告げるとにべもなかった。一度も俺のほうを振り向かずに、外へ行ってしまった。

その日の仕事の指示をなにも受けていなかったから途方に暮れて、とりあえず寮のあるボロアパートに帰った。

アパートの管理をしているおじさんは、もう知っていたみたいで、

「坂本くん、明日から三日以内に次の部屋を探して、出て行ってくれや。気の毒だけど」と、すまなそうに言った。

このとき初めて、この人の話し声を聞いた。

朝いつも、俺が出社するときには、まだ来ていない。

そして帰ってきたとき、「お疲れ様です」とか、「ただいま帰りました」と言っても、言葉は返ってきたことがなかった。

(仕事もなくなり、明日からどうしよう)

(部屋探すったって、どこに聞いたらいいんだ)頭のなかは真っ白だった。

どう考えても納得がいかなかったが、社長はこれ以上なにを聞いても答えないオーラを出して、俺を威嚇していた。

途方に暮れていた俺は、コンビニに立ち寄り、無料のフリーペーパーと有料の求人情報誌を手に取った。

全部を読んだわけではないが、ほとんどの職種が必要条件を、高卒以上、要運転免許、年齢二十歳以上と書いてあった。

身元保証人が必要との項目があったので、叔父さんに公衆電話から電話をかけたら、奥さんが出た。

俺が名乗ると、奥さんは不機嫌そうな声を出した。

「もうなんの関係もないんだから、うちに電話してこないでちょうだい」と強い調子で突っ放され、とても叔父さんに代わってくれとは言えない。取りつく島もなく、電話は向こうから切られた。