再び医師が言う。
「坂本さん、失礼だけどお父さんは?」
「僕が小さい頃に離婚して、今はどこに住んでいるのかわかりません」
消え入りそうな声で答えた。
「誰か大人で、二人の身元引受人になってくれる人はいませんか?」
なぜ俺では駄目なんだろう、未成年だからか?
そうしているあいだも、母さんの状態は悪くなっていくのが見ていてもわかった。
俺は母さんの側についていたかったが、医師は書類にサインできる大人を連れてこいという。困ったあげくに、家を出るとき悪い予感がして念のために持ってきた、母さんの弟の電話番号に連絡した。
電話越しに、あまり協力的でないのが伝わってきた。叔父さんが、父さんの電話番号を教えてくれた。
ますます気後れしながら、電話をかけた。すっかり暗くなった時間だったから、電話はすぐにつながった。
「誰?」
面倒くさそうに、父さんは言った。
「あの、僕、息子の曜です」
「なんの用?」
その冷淡な口調に足がすくむ。
でも、言うしかない。意を決して、
「母さんが脳梗塞で倒れてしまって、病院で大人を連れてこいって言われて、僕じゃ身元引受人になれないんです。叔父さんに電話したら、父さんに頼めって言われて、ほかに頼める人誰もいないんです」
一気にそこまで話した。