それから、クラリネットとの格闘の日々が始まった。小さい子が一語一語拾い読みするように、一音一音確かめて吹いていく。図解入り説明書だけが頼りである。まさに独学のスタートだった。音楽万能(もちろんクラリネットは未経験)の夫が、側であれこれアドバイスをくれる。
肩や腕に余計な力が入っているので長くは続けられない。楽器を支える右手の親指が痛い。新しくリードも買って、試行錯誤するうちに何とかメロディーらしきものも吹けるようになってきた。夫が時折「うん、今のはいい音だ」などと褒めてくれるのが励みになった。
後に正式に個人レッスンに通うようになるのだが、この時ついた自己流の悪い癖から抜け出せず、今も苦労している。
ある日、クラリネットを片付けようとしたら、上管と下管がどうしても外れない。注文した楽器店に電話で相談したら「冷やせば抜けるかもしれない」と言われ、楽器を冷蔵庫に入れた。急激な温度の変化は楽器には悪いことだと後で知ったが、そんなことも今はいい思い出である。
自己流独学三年、個人レッスン三年を経て、しばらく実演を通して勉強。
いろいろあって、心機一転今また個人レッスンを受けている最中。長いクラリネットとの付き合いが続いている。