実家では数年前に妹が生まれていた。3歳下だったが、早くから両親に計算を教えてもらっていたと見られ、計算の能力は、すでにぽろもきを超えていた。
すでに英才教育を受けている妹と違い、ぽろもきは計算の能力はもちろん、計算への興味も持てない。その代わり、昆虫や動物の図鑑で種類や生態を調べることが大好きだった。
父も母も、ぽろもきをよく叱りつけていた。
「そんなことでは、将来は何の役にも立たない人間になる。もっとしっかり計算の勉強をしなさい」
ある日、ぽろもきの計算成績表を見ていた父は、あまりの成績の低さに激しい怒りと嫌悪感を抱いた。
ちょうどその時、本人は自宅マンションの前の狭い地面で、アリの巣を見つけて、うれしくなってじっと観察していた。
窓からその様子を見つけた妹が、兄の成績表を見て怒りに震えている父に「虫を見ているお兄ちゃんが気持ち悪くて、計算の練習に集中できない」と言った。
父は、成績表を握りしめたまま鬼のような形相で玄関前に下りてきて、ぽろもきの目の前で、アリを巣ごと踏みつけた。
「こんなくだらない虫なんか見ないで、もっと勉強しろ」
ぽろもきは、自分の心も踏みつけられたように苦しくなって、しばらく動けなかった。