1 ある事件
二年生に進級した初日だからといって、遊んではいられない。昨日までお世話になった眼科の先生や看護師の方々にお礼も言いたかったし、今日はバイトで借りていた制服を返す用事がまだ残っている。
そして、眼科に寄って、また先生たちの仕事ぶりを見てみたいというのが本音だ。もちろんバイトはもう契約終了しているから、お手伝いができるわけではないのだが、またあの活気のある職場で仕事ぶりを観察するだけでも勉強になる。本来なら実習でもないのに附属病院の診療科に看護学生が立ち寄るのはあまり望ましくないが、用事があれば構わないだろう。
あずみは、すっぽかされた真琴の相談事が気になりながらも、目的が確かなだけに足取りも軽く、大学の裏手にある病院事務所に向かった。
「あの~、こんにちは」
ドアをノックして事務所に入った。セキュリティーはしっかりしているところだが、一応入り口までは自由に入ることができる。
「はい」
入り口付近でコピー機を使っていた女性が振り返った。
「あの、わたし看護学部二年の篠原あずみです。バイトでお借りしていた制服を返しにきました」
とりあえず用件を手短に説明して、あずみは制服を入れた紙袋を差し出した。
「ああ……」
女性は少し驚いた様子であずみを見た。
「ロッカー室の中に段ボールがあるの。そこに入れておいてくれる?」
女性は少し笑いかけて、
「あなた、一番乗りね」
と言った。
誰もまだ持ってきていないらしい……。
あずみは恥ずかしくなりながら、小さく頭を下げた。
「ロッカー室は開いているわよ」
「はい、すみません……」
あずみは、右手側のロッカー室に入っていった。
中に入ると、部屋の端に確かに段ボール箱が置いてある。大きいサイズの段ボールだが制服は一着も入っていなかった。やはり一番乗りのようだ。
あずみは、朝一番でクリーニングから戻ってきたビニールカバーをつけたまま、制服を段ボールの中に入れた。ふうとため息をついた。
そのとき。
バン!
ロッカー室のドアが音を立てて開いた。
え? 何?
ビクッとして、思わず開いた入り口のほうを振り向いた。