第一章

アンナ先生の家

先生は昔から付き合いのある付近の村に住む女性をコック兼掃除婦として雇っていた。その他にいつも頼んでいるタクシー運転手のステファノがいるが、彼はお抱え運転手ではなく、ただ長い付き合いで何かあれば先生の用事を優先してくれる。

先生の別荘にいるのはこれで全部ではない。でもその話はおいおいにすることにしよう。

イタリアは二十の州(Regione)に分かれていて、ミラノはロンバルディア州に、ストレーザはピエモンテ州に属している。マッジョーレ湖の真ん中を二つの州の州境が走っている。州はさらに県(Provincia)に分かれている。行政を司るのは県であり、郵便番号は県の頭文字で表される。ストレーザの頭文字はVB(ヴェルバーニア)である。

ストレーザはピエモンテ州の東端にあるコムーネだ。〝コムーネ〟とは土地の共同体を表す言葉だが、必ずしも人口によって決められている呼び名ではない。人口百四十万人のミラノも五千人のストレーザも同じコムーネだ。従ってストレーザはピエモンテ州、ヴェルバーニア県、ストレーザ市である。

それに対してストレーザの後ろに点在する村々は〝フラツィオーネ〟と呼ばれている。日本で言えば何々村、〝字〟何々という呼び名に相当する。人口二百から千人くらいの村々だ。これらの村々も同じ県に属している。