杉井弁護士は、オカンの目の前で、電話を受けた。

「加瀬弁護士ですか? 私は聞いていません。今、お母様は、目の前におられますが」

杉井弁護士は、受話器を持ったまま、オカンの方に顔を向け、

「加瀬弁護士と名乗る人物が、ご両親から依頼されたと言って、接見に来たとのことですが、お母さん、心当たりありますか?」と尋ねた。

オカンは、「え? そんなんあり得ません。加瀬弁護士は、元々、相手方弁護士ですし、そんな人に、夫や私がお願いするはずがありません」と、混乱しつつ、全力で否定した。

杉井弁護士は、その旨を電話口で伝えて、受話器を置き、

「検事によると、加瀬弁護士が、ご両親の依頼で選任となる予定だと言うので、検事調べを中断して接見させたものの、選任届も持っていないし、様子がおかしいと感じて、電話してくれたそうです。加瀬弁護士には、お引き取りいただくとのことでしたので、安心してください」と、伝えた。

そして、「今からすぐに、私達も、検事と本人に事情を聞きに、大阪地検に行きます。これは明らかに弁護妨害だ!」と、常にクールな彼には珍しく、激高した様子であったそうだ。

その後、杉井弁護士と佐田弁護士は、大阪地検に走り、入館記録に加瀬弁護士の名前を確認したものの、入れ違いであったようだ。

それもそのはず、検事から、「お引き取りください」と伝えられた加瀬弁護士は、その足で、拘置所に先回りして、僕が戻るのを待っていたのだ。

僕は、大阪地検で、杉井弁護士、佐田弁護士に事情を話してから戻ったため、既に夕刻5時の一般面会時間は過ぎていた。

しかし、僕を待ち受けていた加瀬弁護士は、接見を求めてきた。つまり、ここでも、「選任予定の弁護士である」と偽り、許可を得たのだろう。

もちろん、お断りをした。

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