どんだけ青天の霹靂やねん
これは、ごく真面目に生きていた医師(33歳)の、[青天の霹靂ほぼ実体験]を、オカンが手紙や日記から拾い集めてまとめた記録である
「人生は、近くで見れば悲劇でも、遠くから見れば喜劇である」と、チャップリンは言った。
Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.
今は泣くほど悲しかったり悔しかったり苦痛である事も、
その場から離れてみたり、あるいは立場が変わったり、
そうして程よい時間年月が経てば、やがては温かい気持ちで、笑って振り返れる時が来る。
そう、生きている限りは……。
2018年8月28日火曜日
体調がすぐれず、朝からリビングルームのソファーに横になっていた。
翌日は引っ越しなのだが、荷造りの最終チェックは、オカンに頼んだ。
実家から歩いて2分とかからないマンションに住んでいたが、この前月の初めに、そのマンション前の側溝で、仔猫を見つけた。
声がするので覗き込んでみると、まだ生まれて間もない様子の幼い子で、怯えたように震えながら鳴いていた。
辺りを探してみたが、母猫や兄弟姉妹の姿はなかった。
このまま放置しておいては死んでしまうだろうと、とっさに部屋にダンボール箱を取りに戻り、少しでも安心するようにとタオルでくるんで、そっとその中に入れた。
それでもその子は鳴きやまない。
小さな体で、僕に必死で何かを訴えているように感じられた。
さて、どうしたものか。
マンションは、ペット飼育禁止である。
両親は、元々猫嫌いで犬派だったがひょんなことから、昨年、この辺りにひとりぼっちで暮らしていた仔猫を引き取り、育てている。
台風の翌日に、近所の家のガレージに置かれたダンボールの中で、毛並みがボロボロになって丸まっているその子の姿を見たオヤジが、不憫でいてもたってもいられなくなったらしい。
「まさか猫を飼うことになるとは思わへんかったわぁ」
と、オカンは、今では丸々と成長したその子に目を細めながら、よくそう言っている。
話せばわかってもらえるかもしれない。
という訳で、深夜0時頃ではあったが、そのダンボール箱を抱えて実家のチャイムを鳴らした。
当然ながら、オカンは、こんな夜中に何ごとかと驚きつつ、
「福ちゃん(8年前に保健所から引き取った先住犬)と、マナちゃん(この前年に引き取った先住猫)がいるし、もうよう飼えへんわ~」と、困惑した面持ちで答えた。とはいえ、今はとにかく保護してミルクでも与えなければ死んでしまう。
……とにもかくにも取りあえず、両親に、
「ペット可の住まいを探す」
と約束し、その日から、仔猫と一緒に、実家に転がり込んだのである。
仔猫は男の子で、ラーと名付けた。
古代エジプト神話に登場する太陽神の名前だ。
丁度、古代エジプト文明に興味を持ち、よくネットで関連記事を読んでいたため、その
名を思い付いた。
洋猫の血が入っているのか、顔が小さく細身で、姿勢がすこぶる良い。
すっと背筋を伸ばして(猫背ではない)、長い尾を体にくるんと巻き付けて座る姿は、エジプトの古代遺跡に見られる絵や彫刻のようだ。
毛色は、ベンガル種に似ている。
その後、何とか、ラーと一緒に暮らせる住まいも見つかり、いよいよ翌日に引っ越しの日を迎えることとなっていた。
しかし、荷造りに根を詰めすぎたのか、朝から頭痛がして、ちょっと休んでいたのだ。