今まで気にも留めていなかったが、よくよく記憶を辿ってみれば、肌は赤銅色、頭の麓に白雲なる銀髪を残し、そこから頂点に掛けて大きく禿げ上がった、何とも不気味この上ない老人であった。そのように有三は思い返していた。

目的の場所に向けてハンドルを握っている間、有三は、心中で気に掛かっていたものが、ムクムクと頭をもたげ増幅していることに気が付き始めた。それは多分、沙織夫人の血色の悪さに起因するものではなかっただろうか。

本来であれば、失せ物が無事に戻り、政財界のレセプションでも例のお宝を腕に巻き、スーパー業界ナンバーワンの勢いを、参集しているお歴々 (れきれき)の前で十分にアピールできたであろう夫人としては、万全の達成感と充実感に満たされた表情をしていても、決しておかしくなかったはずなのに、会った時の顔といったら、まるで肺病病みのように血の気も気力も失せていたのだ。

八月十七日、日も西に傾きかけた頃、ゴミ処理場の前に青い軽自動車が停まった。そして中から一人の大柄な男が降り立った。

この処理場の中央には、民間施設には相応しからぬ二メートルほどの径がある灰色の巨大煙突が聳(そび)え立ち、鼻を突く異臭を伴って暗黒色の粘っこい煙を立ち上らせていた。

果たして役所からの正式な操業許可が下りているのかと疑いたくなるほどの大量の悪煙を辺り一面に振り撒いている。

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