第3話 イースタン&オリエンタル・エキスプレス
3月6日
例えばキッチンには、「バターがなくなってきた。もうお菓子を作ることはできない」、屋根へ通じる階段には、「鳥は自由に行きたいところへ行けるのに、私は外に出ることすらできない」というように日記から抜粋されたさまざまなアンネの言葉が展示されていた。
すすり泣きの声がいくつか聞こえ、私も目頭が熱くなった。隠れ家を一通り通り抜けると資料館になっていて、生存者の声や父親自身が説明している画像などがある。
アンネの日記を読んだことがなかったので、日本に帰ってからすぐに読んでみた。びっくりした。13歳の子供がこんなに思慮深くなるものだろうか。人間に対する考察。厳しい生活の中でのユーモア。日常の淡々とした描写。信じられないくらい理性的な文章。
なぜこんな日記が書けたのだろう。頭脳明晰で、感受性豊かな少女だったことは間違いないが、これを書いたのは才能だと思ってみても奇跡としか言いようがない。
アンネの人柄を表す名言を紹介しよう。
「私たちは皆、幸せになることを目的に生きています。私たちの人生は一人一人違うけれど、されどみな同じなのです」
「与えることで貧しくなった人はいまだかつて一人もいません」
これらを読んだ人々の感想として、かわいそうに収容所で亡くなるなんて、と続く。ドイツ軍はどうしてこんなに非人道的なことができたのか、ああ、信じられない。こんなことは二度とあってはならない。私の身には降りかからないだろうけど。