第3話 イースタン&オリエンタル・エキスプレス
3月7日
オリエント急行の旅は続く。どこまでも続く水田や野原は陽が沈むのも陽が昇るのも存分に見せてくれる。
夜明けすぎにデッキに出てみると沐浴している老人を見かけたり、自転車を持ち上げて線路を越える少年を見たり、バイクに乗せられて学校に向かう子供たちを見ることができる。多くの人がオリエント急行に向かって手を振ってくれる。なんとも楽しいひと時だ。
この日のツアーは午後からトラディショナル・ヴィレッジへの訪問だ。朝食を終えて、CAに何時の出発かと尋ねた。Two hours halfと言う。そうではなくて出発時間はとまた聞くと、同じ答え。2時間半のツアー時間はわかったから、出発時間はとまた聞くと、また同じ答え。
お互いに違う聞き方をすればいいのに漫才みたいに繰り返す。結局のところ午後2時30分の出発だったのだが、このやり取りの最中CAさんは笑顔を絶やさず何とも優しい表情で物分かりの悪い日本人に対応してくれた。さすがオリエント急行だ。
ゴムの木から汁を取り出す体験や民族舞踊の見学や水田で遊ぶ鳥など、この日のツアーは楽しかった。列車に戻れば豪華な夕食が待っている。マレーシアの熱い日中から帰った冷房の効いた車内はまさしく天国だ。
食後はバーでピアノ演奏を楽しんだ。陽気な欧米人はダンスをしたり歌を歌ったりと楽しんでいる。日本人の私は慣れていないので照れてしまい、遠巻きに眺めている。それでも十分楽しかった。オリエント急行の旅、大満喫だ。
オリエント急行に乗らなければ知らなかったことがたくさんあった。なぜだろう。日本人が思っている日本と、海外の人が思っている日本は同じものなのだろうか。自分と他人の見方のように違う角度から眺められている可能性もあるかもしれない。シャイな日本人は案外取り付く島のない高慢な人に映っていたりして。