2-7 手話通訳制度の抜本的改善の必要性

垰田(注2)(2021)は、「手話通訳制度の抜本的改善の必要性」について、以下のように述べている。

  • ①公的な手話通訳制度の強化
  • 身分保障の確立のためには、現在の手話通訳制度(事業)の根本にある「手話通訳=ボランティア」の考え方の払拭がまず必要と考えられる。特に、派遣事業は労働者性が認められていないため、健康障害や事故に対してもボランティア保険の範囲でしか対応されない。専門職としての処遇を求めるべきである。
  • 現在の手話通訳制度(設置・派遣・養成等)は、障害者総合支援法の地域生活支援事業に位置づけられている。地域生活支援事業は、制度が始まった当初に比べ予算は微増にとどまり脆弱である。
  • また、新型コロナウイルス感染症対策の一環として、遠隔手話サービスの環境の整備が都道府県・市町村ではじまった。遠隔手話サービスは、電話リレーサービスとの関連から今後の民間事業者の参入の可能性は否定できず、手話通訳者の健康管理の観点からも今後の動向を注視する必要がある。
  • ②養成課程における専門性の確立
  • 手話通訳が専門職として確立されるためには、若年層が養成の対象者の中心になる必要があり、そのためには欧米ではすでに実施されているように、大学や専門的な教育機関で手話通訳者を養成するしくみに切り替えていく必要がある。
  • 今後の聴覚障害者の社会参加の進展や「地域共生社会」の進展にともない、専門的知識と熟練したスキルやノウハウが必要な手話通訳場面(例:司法、高等教育、複雑な相談)の増加が想定される。この点からも養成課程の内容を専門職としての内容とすることが必要となると考えられる。

  • ③正規職員雇用の確立

  • 正規職員としての雇用の増加が進まない(微増にとどまっている)理由を考察する。
  • まず考えられるのは、自治体内の手話通訳業務に対する評価が高くない(正規職員が対応する必要がある業務という認識が乏しい)ことである。
  • 全通研が以前から指摘するように、手話通訳事業は単にコミュニケーションを媒介するだけの仕事ではなく、ろう者の暮らしを支える生活支援を含む自治体としての基本的業務と位置付ける必要がある。
  • このような認識が社会に広がれば、手話通訳事業の実施に際して、専門性の高いスキルを持つ人材=有資格者の正規職員としての採用が進むと考えられる。ただし、その前提として、養成課程における専門性の確立をあわせて進めることが必要と考えられる。

注2:垰田和史(2021)『雇用された手話通訳者の労働と健康についての実態に関する調査研究報告書─2020 年8月調査─』厚生労働省令和2年度障害者総合福祉推進事業,一般社団法人全国手話通訳問題研究会

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次回更新は6月27日(木)、10時の予定です。

 

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