三 波乱のカプリ島・ナポリ、初体験のローマ
そして案の定アンコールが披露されることになり、そこで歌われたのは坂本九の「上を向いて歩こう」。だがその当時の私は、何故「上を向いて歩こう」がイタリアで有名なのかを全く知らなかった。
その当時は日本の歌がイタリアでも知られていることに感銘を受けたが、何故「上を向いて歩こう」なのかまでは想像が及ばなかった。
答えはそれから何年も経ってようやく分かったが、私が生まれる何年も前の出来事で、ここで事実を書くにはあまりにも畏れ多い。ともあれ、嬉しいサプライズに私はここでも幸せな気持ちになった。
また慌ただしい夜を迎えたが、翌日はこの旅のハイライトの一つが待っている。そう確信しながら、私はまた眠れない夜を過ごした。
四 半日で巡るローマの真髄、まさかの苦手克服
怒涛のナポリ観光の翌日以降は、もっとゆっくりしたスケジュールだった。朝、ホテルの朝食会場で甘いクロワッサンとコーヒーのコンチネンタルブレークファストを食べた後は、待望のローマ観光だ。
そこを約半日で巡るのは少々短い気もしたが、今回はバチカン市国にまで入れるのだ。イタリア国内で唯一パスポートが必要になる場所だから気を付けてと添乗員さんに釘を刺された時、私はあの場所に行けるんだと胸が高鳴った。
私自身、故ヨハネ・パウロ二世の名前を何度かニュースで見聞きしており、教皇が亡くなった後もバチカン市国という世界で最も狭い、けれども神聖な国家にずっと興味を抱いてきた。
ニュースで何度も見てきたサン・ピエトロ大聖堂が今回直に見られるのだ。
朝、バスから降りてバチカン市国への入国審査でパスポートを見せ、いよいよ中に入る。そこは想像以上の別世界だった。
今まで見たこともないほど荘厳で、私たち含めた観光客が多くいながらも重厚な空気がそこかしこに漂い、これが一つの国家なのかと驚愕した。
当時少しだけ読んでいた社会の参考書ではバチカン市国とディズニーランドの面積が比較されていたが、入った瞬間空気が変わったような気がしたのは初めてディスニーランドに連れて行ってもらった時の比ではなかった(そもそも比較対象が間違っているのだが)。
サン・ピエトロ大聖堂本堂を囲むアーチ状の回廊、その上に一五〇体ほど並ぶ像、大聖堂の背後に見えるアパートのような建物、外の石畳に至るまで徹底されて作り込まれた世界は当時の中学生にも大きな衝撃をもたらした。大聖堂の中も然り。