三 波乱のカプリ島・ナポリ、初体験のローマ

さて、船酔いも落ち着いてきたところでようやく昼食の時間になった。

朝はバス車内で菓子パンとジュースの簡素な食事を摂ったので、これから本格的にイタリア料理を堪能できる。この日のメニューはカプレーゼにパスタ。カプレーゼは料理好きの父の影響で写真で見たことがある程度だったが、想像以上の美味だった。

トマトの赤、モッツァレラチーズの白、そしてバジルの緑。見た目にも美しいが、モッツァレラチーズがトマトの甘味を引き立たせ、そこにバジルの爽やかな香りが調和している。

元々イタリア料理はかなり好きな方だが、この旅で初めて現地で食されている本物のイタリア料理の真髄が分かった気がした。

その後の食事でも、日本よりも甘くて美味しい野菜、オリーブオイルにバジル、新鮮な果物にのびのびと育てられた牛から作られるチーズなど、素材の時点で既に日本とは次元が違うことを思い知らされることになった。

カプリ島の景色と昼食を堪能した後は、一路ナポリへと戻る。行きのフェリーに慣れたせいか、復路では体調不良を訴える人はいなかった。バスでナポリの名所を見て回り、向かったのはカメオ工房。

だがこの時、私は今でも非常に後悔していることがある。

当時の私にとっての美しいものは、宝石など見た目がキラキラしているものに限定されていたのだ。カメオという、大理石などに人の横顔を手作業で彫る技術は何十年もかかってやっと習得できる、人間が創り出す美だ。

そこにあるヒューマンドラマもまた非常に美しいものである。だが当時の私はそれを「キラキラしていないから」という理由で工房をぼんやり見て回ってしまった。

「これがカメオなんだ」とか、「これを作る労力ってどれだけかかるんだろう」ほどの感想しか持たずにあまり興味を示さなかったのは、今振り返れば実に浅はかな話だ。

今でこそ職人の芸術美や作品が生まれるまでのドラマに感動する機会は格段に増えたが、ヨーロッパ好きを名乗るならもっと深い視点で、自分なりにでも想像を広げながらこの工房を目に焼き付けなければならなかった。