ですから、患者さんによっては説明が何回にも及びますから、このような説明用紙を何枚も持っていることもあります。私は患者さんが後から見直しても理解しやすいよう書くことを心がけています。

当科に紹介される患者さんのほとんどは、がんと診断された時点で手術ができない遠隔転移があるか、局所病変が周囲に広がっていて手術不能、または以前に手術などの治療で一旦は治癒したと思われたのにその後に再発して、今度は根治手術が難しいと考えられる方です。

かなり進行したがんでも抗がん剤治療で縮小すれば手術の可能性がある場合、または術後の再発予防のための抗がん剤治療目的で当科を受診する患者さんもいますが、今回はそのような方を除いて説明します。

説明する項目は、以下のⅠからⅧになります。

Ⅰ 今までの臨床経過の説明

まず患者さんの今までの病気の経過をまとめます。

・いつどんな診断をされたのか→2020年2月大腸がん

・進行度はどの程度か→ステージⅢC(病気によりステージの評価方法は変わります)

・いつどんな治療を受けたのか→2020年2月手術2020年3月~9月補助化学療法(手術後に行う再発予防のための抗がん剤治療)

・現在の病態は→2022年3月多発肝転移(肝臓に転移した腫瘤が二つ以上ある状態)

患者さんと医療者で病態の理解を一致させることが大切です。以前は、「主治医に“がん” と言われていなかった」という患者さんがかなりいましたが、さすがに現在はそのようなことはありません。

けれど、「専門の病院で治療を受けた方がいい」と主治医に説明されただけでがんセンターを紹介される患者さんは今でも少なからずいらっしゃいます。

Ⅱ 手術不能であることの理解

根治手術が不可能であること、つまり治癒は難しいことを説明します。例えば、多発肝転移の場合、転移した腫瘤の部位にもよりますが、転移した腫瘤を全部切除する根治手術は難しい場合が多いのです。また、例えば検査で肝臓に腫瘤が2つ見つかっても、実際にはそれより多いこともあります。

CTは体の周囲からX線を照射することによって得られた断面の情報を画像再構成し、断層(輪切り)像を得る検査です。例えば、1cmの間隔の画像だとすると、それより小さい腫瘤は画像に映らないことがあります。

ここで、患者さんから「もう治らないってことですか?」「死ぬってことですか?」という質問が出ます。そこで、治癒困難がすぐ死ぬこととは全く異なることを説明して、まずは患者さんに落ち着いてもらいます。

Ⅲ 標準抗がん剤治療の説明

標準抗がん剤治療の説明をします。

「標準」の意味を理解していない患者さんからは、「標準ではなくてもっと良い治療をして」「お金はいくらかかってもいいから」「私の医療保険には先進医療特約がついているので、一番いい治療を」との言葉をよく聞きます。そこで一般的ながん治療の種類について説明します。

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