昭和初期に華やいでいた老舗のホテルが今は廃業して博物館のように見学できるというので行ってみた。レトロで豪華な雰囲気で、軽井沢の鹿鳴館と呼ばれて外国人や政治家や実業家たちが連日舞踏会などをしていたという。
ときの総理大臣などが映っている晩さん会の写真を見て母が、「あら、この方知ってるわ。小さいころ抱っこしてもらったから」と言うのでしずかも子どもたちもびっくり仰天したのだった。
しずかの家では子どもたちも次第に家族で旅行をするのを嫌がるようになった。
そのころから夫は家ではいつも不機嫌だった。しずかは子どもたちとは学校の話や、テレビの話もよくしたし、幼稚園や小学校の友達の親とも仲よくしていたが、子どもは成長とともに母とも話さなくなってきた。そしてしずかは孤独になり、パートの仕事を始めたのである。
塾や習い事にお金がかかるようになっても、夫は余分なお金をくれなかった。毎月決まった額の現金を給料日に渡してくれるだけで、それ以上は請求できなかった。
足りるわけがないのだが、それは言っても無駄だったので、自分の勤めていたときに貯めていた貯金を切り崩したり、実家に行ってお小遣いをもらったりしてしのいでいた。だが、それにも限界があるので自分で働くしかないと思った。
【前回の記事を読む】家の中には子どもや夫の笑顔がなかった…いつも笑っている彼の歌う姿だけが固まった心をほぐしてくれた
次回更新は6月24日(月)、21時の予定です。