お嬢様の崩壊

それにしずかも社会に出たかった。とはいえ、スーパーのレジやファミレスで働くのはどうしても自分の中のプライドが許さなかった。幸い正社員で働いていたときのパソコンのスキルや資格があったので、派遣会社に登録すると、すんなり仕事を紹介してもらえた。

だが、実際にしばらくぶりに仕事を始めると、若い社員にこき使われたり、怒られたり、プライドはすぐにずたずたになったのだった。派遣のおばさんは甘くはなかった。

家でも職場でも居場所がなかったしずかが、音楽の力で救われたのだった。

マサキの曲には、前向きな歌詞が多かった。倒れてもまた立ち上がろう、とか、明けない夜はない、とか。聴いていると、(うん、うん、そうだよね)と思えるのだった。自分が世の中で一番不幸だと思っていたのが、そうでもないと思えるようになった。

そろそろ風が冷たく感じられ、通勤にも手袋やマフラーをする季節になったころ、申し込んでいたコンサートの当落結果が送られてきた。なんとしずかの名義で札幌の公演が三枚当選したのだ。

友希恵さんも別の日程で札幌公演が当選していて、彼女は三日間連続で行くという。コンサートは一回行くことができればそれだけで十分と思っていたしずかにはそれは衝撃だった。何しろ、まず家族に言わなくてはいけないのだ。