恐る恐る夫に札幌にコンサートに行きたいと言ってみた。

「あのね、友達と一緒にコンサートに行きたいの。札幌だけど、だめだよね?」

夫は「え? なんでまた、それも札幌に?」と驚いたが、「なかなか当たらないチケットが当たったから行きたいの」と言ったらすんなり行ってもいいと言われた。そのかわり、「子どもたちの夕飯は作ってから行くように」とつけ加えられた。

かくして、しずかは、一泊二日の弾丸で札幌に行くことになったのである。

友希恵さんたちはいつも泊まるホテルが決まっていて、チケットの当選が決まる前に航空券も手配済みだという。抜け目ないのにまたまたびっくり。

そういうものなのか、と学習し、しずかは自分の一泊二日の航空券と宿をパックで見つけて確保した。友希恵さんたちとは現地で合流することにし、結婚以来初の一人旅をすることとなった。

当日。

家族のためにハヤシライスを作って冷蔵庫に準備し、ゴミの捨て方とか、お風呂のガスを消すようにとか、日常的にしずかがやっている家事のこまごましたことをメモに書いてテーブルのうえに置いた。家のなかの名もない仕事は数え切れないほどあるのだ。

家族がまだ寝ているうちに、荷物を持って玄関を出た途端、今までに味わったことのない解放感で叫び出しそうだった。それだけ何年もの間、家族にしばられていたことを改めて感じた。