しずかが子供のころには毎年夏休みには葉山や鎌倉の海に連れていってもらった。葉山には父の知り合いの別荘があり、海水浴のたびに訪れていた。
しずかの父親も別荘を買おうと家族に提案して八ヶ岳に物件を探しにいったりもしたが、「別荘だと掃除をしたりごはんを作ったりするのが面倒だわ」という母の意見で断念した。確かに別荘はメンテナンスが面倒である。
それからは鎌倉の定宿に宿泊して海水浴や鎌倉散策をするのが毎年の楽しみになった。母は自分が子どものころには「おじい様の別宅が鎌倉にあってね、夏休みにはいつもお泊まりに行っていたのよ」という話をよくしていた。
そのおじい様(しずかの曽祖父だが会ったことはない)にはお妾さんがいて、いつも別宅ではその人に遊んでもらっていたという。
おばあ様(本妻)は地味で小柄なおとなしい人だったけれど、お妾さんは背がすらりと高く着物の襟を芸者さんのように深くくいっと抜いて着ていて色っぽかったの、と母は言う。しずかはそんな話を昔のものがたりのように面白く聞いていたものだった。
母と一緒にしずかの子どもたちを連れて軽井沢に行ったことがあった。母は軽井沢には学生時代に毎年訪れていたらしく、とても詳しい。