第一章 夢はいつか海外で

魅惑のマジックバス

一九八〇年代前半だったと思うが、『暴走! 1万3千キロ インド発ロンドン行き直行バス』(日本テレビ)というドキュメンタリー番組で作家の中上健次が、インドのニューデリーとロンドン間、一万三千キロを「マジックバス」と呼ばれている路線バスで旅をする様子が放映されていた。

二十人ほどの客を乗せた古いドイツ製のマジックバスは、インドのニューデリーを出発したあと、パキスタンに入り、休憩のためにある町に立ち寄った。バスの乗客は食料を求めて、三々五々、夕暮れの雑踏の中に消えていく。

露店には、色鮮やかな野菜や果物、肉、雑貨が雑然と並び、イスラムの白装束の男性やスカーフを被った女性でごった返している。バスは再び二名のトルコ人の運転手が交替しながら走り続け、未明にシルクロードの要衝であった古都、ペシャワールに到着した。

夜が明けると、レンガ造りの古い建物が建ち並ぶペシャワールを出発し、アフガニスタンとの国境近くの荒涼とした砂漠地帯を南下した。当時、ソビエト軍がアフガニスタンに侵攻して、アフガニスタンは戦争状態であったためマジックバスはアフガニスタンを通過できず、パキスタンを南下するルートをとっていた。

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