やや広い通りに出ると、渋滞している車と車の間は、バイクで埋めつくされ、あちこちでバイクの空吹かしをする音やクラクションの音が鳴り響く。信号が青になると、赤い小型オート三輪タクシー「パジャイ」は二サイクルエンジンの軽く乾いた音と、混合油が燃えた異臭をまき散らして目の前を走り去る。
歩道の幅は五十センチほどしかなく、ところどころに穴が開いて下の側溝が見える。さらに歩いていくと歩道の上にバイクやテーブル、椅子、移動式屋台が乱雑に置かれていて、人間は車道を歩かざるを得ない。ここはまさに日本で想い描いていたジャカルタそのものである。
日経ビジネスに「ジャカルタは活気があり、今、インドネシアが熱い」と書かれていたが、確かに、暑く、人や車が多く、街は雑然としていて騒々しい。もちろんこの環境が「体質に合わない」ことはない。それどころか、この混沌とした環境で生活したいという気持ちに火が付いた。
そして、このあと、思いもよらない展開が私を待ち受けていた。
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本作は、新卒で入社以来、国内営業一筋であった私が五十八歳で早期退職し、インドネシアの企業に転職してセカンドライフを送った実体験を綴ったものである。