長っ尻の梅雨が去ったばかりだというのに、季節の気まぐれは容赦ない。唐突に顔を出した真夏の陽射しが、全面ガラス張りの向こう側のテラスをじりじりと炙っている。

その様子を冷房の効いた学生食堂から眺めていた国生(くにお)は、胸を撫で下ろさずにはいられなかった。今日は午後の授業がないので、この炎天下へ出て行かずに済む。

誰もが意味もなく浮き立ってしまう、眩しい季節がやって来た。ただ、この特有の解放感に浸っていられるのも今年までだ。学生最後の夏休みを目前に控えた国生は、今になって少しだけ大学生活が名残惜しくなっていた。

テーブルの向こうには同級生が二人、国生の背後に開(ひら)けるテラスを見詰めたまま惚(ほう)けている。昼食を終えたばかりなので、水飴のような眠気に絡みつかれているのだろう。

「今年はどこも早いみたいだな。国生は内定出たか?」

斜め向かいの席で携帯電話を弄(いじ)り始めた純也(じゅんや)が、いかにもつまらなそうに呟いた。胸ポケットから新品の煙草を取り出してセロファンを剝こうとしているが、片手ではなかなか上手くいかない。

「お前、さっきから何調べてんだ。まさかこんな時期に、就職先の発掘?」

国生の真向かいに座っている壮亮(そうすけ)が、退屈そうに横槍を入れた。純也はぴたりと手を止め、憮然とした顔を壮亮に向けた。どうやら図星らしい。