純也の目の前には、さっき食べたカツカレーの皿が置かれている。いつもならこの辺りで泣き寝入りするのだが、この日の純也は珍しく食い下がった。

「何だよ、俺みたいに遊び飽きてる奴のほうが、社会に出たら成功するぞ。今のうちに未来の大物の機嫌を取っておかなくていいのか?」

尚も壮亮は嬉しそうに、毛先のうねった長い髪を揺らして何度も頷いた。

「うんうん、確かに純也は、社会に出てから活躍するタイプだと思うよ。でもまずは社会に出ないとな。暑さを我慢してスーツを着るか、カツカレー食い放題で就職浪人するか、どっちにする? どっちかというと俺は、純也が何杯カレーを食うか見てみたいけど」

「俺はフードファイターじゃねえ。──そこまで言うなら帰ってやる。でもその前に、俺と勝負しろ」

勢いよく立ち上がった純也は、ハーフパンツのポケットに手を突っ込んで何かを握ると、拳の中の物を畳んだハンカチの間に滑り込ませた。

「このハンカチの中に、硬貨が一枚入ってる。それがいくらか当てたら、おとなしく就活に行ってやるよ。でも、もし外したら罰ゲームだからな」

「真冬の朝みたいに、布団から出るきっかけが欲しいのか。ほんとに面倒な奴。とっとと引導を渡してやろうぜ」

壮亮は待ってましたとばかりに言い捨てて、国生に目配せをした。なんだかんだ言いながらも、壮亮は純也に甘い。

「よし、じゃあ張ってくれ。各自二点までだ」

「硬貨は六種類なのに四点張り? 当たる確率が三分の二なんて大盤振る舞いだな。じゃあ俺は、五百円玉と百円玉だ」

壮亮は余裕たっぷりに口角を上げて、純也の悪あがきを早くも楽しんでいる。