「その辛気臭い女は、恨めしそうな目を俺に向けてこう言った。『五円玉二枚と十円玉、交換してくれませんか?』って」
「何のために? まさか券売機で五円玉が使えなくて困っていた、なんてことはないよな」
「さあな。理由なんて訊いてない。とまあそういうわけで、俺の十円玉は五円玉に化けたってわけ」
純也は負けず嫌いだが、イカサマをするような性格ではない。それにもし嘘をつくなら、誰だってもっとましな嘘を考えるはずだ。
「それじゃ、お待ちかねの罰ゲームだ」
壮亮は、はしゃぐ純也を苦々しく見返しながらも、すでに腹を括っているらしく、黙って沙汰が下るのを待っている。一見落ち着いているが、腹の中はさぞ煮え繰り返っていることだろう。
ただ、壮亮をこのまま敗者にしてしまうと、お調子者の純也はさらにつけ上がるに違いない。これ以上の悪ノリを防ぐためにも、お目付役には普段通り踏ん反り返っていてもらったほうがよさそうだ。
苦々しく溜め息をついた国生は、にやつく純也に向かって手を挙げた。
「罰は一人で充分だろ? 俺がやる。何をすればいい? カツカレーでも驕ろうか?」
「いい加減、カレーは忘れろって。それじゃ、罰は国生でいいんだな?」
そう言って立ち上がった純也は、ピーク時に比べるとかなり人が減った食堂を見渡した。
「いたいた、あそこに地味な女がいるだろう。壮亮が知りたがってるみたいだから、どうして硬貨を交換したのか本人に訊いて来てくれ」
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