純也とは入学以来の仲だが、ポケットから硬貨を取り出す姿を見たのは初めてだった。ということは、ポケットに硬貨が入っていたのはたまたま。おそらくカツカレーの食券を買ったお釣りだろう。
カツカレーは大盛りで、値段は四百九十六円。五百円玉で買ったのなら、お釣りは四円。千円札なら五百四円だ。壮亮が五百円玉と百円玉を押さえたので、あとは一円玉さえ押さえてしまえば負けることはない。
そしてもし、その五百四円で先ほどの煙草を買っていたとしても、彼が愛飲する煙草は四百四十円。入手する可能性がある硬貨は、五十円玉と十円玉だけだ。五円玉は除外していい。
「俺は一円玉。あとはそうだな、五十円玉より十円玉のほうが確率が高そうだ」
「壮亮は五百円と百円、国生は十円と一円だな。じゃあ開くぞ、それ!」
純也がさっとハンカチを引き上げると、中から一枚の硬貨がするりと滑り落ちた。その黄金色の硬貨の真ん中には、信じられないことに小さな穴が空いている。
「正解は五円玉だ! お前ら残念だったな」
「五円玉? ち、ちょっと待て、そんな買い物はなかったはずだ」
珍しく壮亮の舌がもつれている。丁寧にハンカチを畳み直した純也は、それで壮亮の汗ばんだ額をぽんぽんと拭った。
「そんなに怖い顔するなって。俺は千円札でカツカレー大盛りを買って、そのお釣りで煙草を買った。ポケットの中身は六十四円だ。だから答えは五十円玉、十円玉、そして一円玉の三種類しかありえない。本来ならな」
「──どういう意味だ」
「俺が煙草を買って食堂に戻ったら、券売機の前に変な女がいてさ。じっと券売機を睨みつけて、隙あらば摑み掛かろうってくらい殺気立ってやがる。あんまり不気味だから、とっとと通り過ぎようとしたんだ。
でも女は、俺の気配に気づきやがった。真後ろを通った瞬間、振り返って声をかけてきたんだ」
話はあらぬ方へと向かっていく。本当に五円玉の謎は解明されるのだろうか。