「何だよ、成果なしは俺だけ?」

肩を落とした純也は、上半身を椅子の背もたれへ投げ出した。

「今年は空前の売り手市場って噂だ。お前みたいな遊び人にもチャンスはある。とっととネクタイ締めて、好青年を演じて来い」

壮亮は呆れた調子で言うと、細い銀縁の眼鏡をこれ見よがしにかけ直した。純也が就職活動に集中できない理由は単純だった。散々遊び呆けていたため、単位に余裕がなく、就職以前に卒業が危ういからだ。前期の試験は終わったばかりだが、その結果によっては早くも卒業に黄色信号が灯る。

「国生はいくつ? 俺は取りあえず四社ほど確保したけど、もう少し続けようと思う」

優秀な壮亮らしい、聞く者によっては眉をひそめられそうな言葉だ。いつもの手前味噌をさらりと聞き流した国生は、人差し指を一本立てて彼のほうへ差し向けた。

「そうか。まあ、一社でも決まれば勝ちだからな。それで今後は?」

「俺はもうやらない。実家に戻らない言い訳ができただけで充分。特に取り柄もないし、どこで働いても同じだからな」

謙遜ではなく本心だった。夢や目標など、人生の具体的な指針なんて何もない。そんなものは、子供が抱くおめでたい夢想のようなもの。だから進学先を選ぶときも、将来のことは大して考えず、実家を離れたい一心で故郷から遠い大学を選んだ。

「このくそ暑い中、スーツにネクタイか……」