そんなものだと思った。きちんと打てないのが自分のゴルフだ。それでいいと妥協し楽しんでいる。

ちなみにゴルフの世界ではゴルフが英国で発祥して米国で発展したため距離表示はヤード法が用いられている(1ヤード=91・44メートル)。

しかしながら日本ではヤード法を採用しながらグリーン上の距離については、ピンに近づくにつれて細かくなるため分かりやすいようにメートル法が使われている。

自分の後ろで打っている人はといえば、5メートル短いときもあるし、グリーンの先まで飛んでいくかと思うようなボールも打っている。ここへきて、私はやっと優越感を覚えることができた。

見ると、彼女の打ち方は、ギャップウェッジ(ピッチングウェッジとサンドウェッジの中間のクラブ)でパターのような打ち方をしている。小手先で打つ分、飛距離がばらつく。

初心者には、易しい打ち方だが、体を軸にして回転し、手打ちを直すほうがよいと思った。初心者にありがちな打ち方だが、さきほどのアイアンからは考えられないな……。

体を軸として回転で打つほうがよいと思いながら見ていた。

すると彼女から話しかけてきた。

「芝の上から打つのは、難しいですね」

「マットの上から打つよりミスがはっきり表れますよね」

「アプローチ上手ですよね。コツってありますか」

彼女から矢継ぎ早に質問がきた。

「私もそんなにうまくはないのですが。あの……、一つ余計なこと言うようですが、もう少し、体の回転を意識して打ってみたらどうでしょうか。両肘をもっと体に近いところに置いといて、脇を締めるような意識で上体を回転させるようにして打つのです」

「体の回転、ですか」

ここからは、得意の講義に入った。私は高校の教員で教えるのが仕事だから、説明はうまいと思う。しかも、短い言葉で的確に表現できる。

そこいらのゴルフおじさんは教えようとして話だけが長く、ボールを打たせないことがある。いわゆる教え魔だ。教わる方は、そんな人をすごく上手だと思っているから、健気にも話を聞いている。

それで、分かったか、できるかと言ったら、できない。なぜなら、アドバイスが抽象的で、何をどう直せばいいか分からないからだ。つまり、悪いところの指摘だけで、改善の方策はないということだ。

「あの、こんな風に手を使う動きに加えて、体も捻じって戻すようにすると、飛距離が安定しますよ。飛距離はテイクバックの大きさで打ち分けるんです。打ってみて」

彼女は、アイアンショットと同じように、1度素振りをして、打った。やはり、一連の動きがつながっていて、澱みがない。ボールは、目標のほうへ真っ直ぐに飛んでいって止まった。

「すごい。一発でよくなったね」

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