突然やってきた病いの兆候

しかし、自覚症状は何の前触れもなく急にやってきた。当時、放課後は校庭でドッジボールやゴム飛びをするのが流行っていた。

でも僕は早くテレビを見たかったので、授業終了のチャイムと同時に家に帰った。両親も祖父母も畑に出かけていたので、鍵を自分で開けて家に入った。

その日も、いつものように学校から帰ってすぐに宿題を済ませた。漢字のドリルとリコーダーの練習を数回して、算数の宿題は兄が帰宅してから教えてもらおうと思い、やらずにいた。僕は兄が帰ってくるまで寝転がってテレビを見ていた。

おやつやジュースなどはなく、畑でとれたミカンがいつも納屋にあったので2、3個横に置き、そのミカンを頬張りながら見るのが日課であった。

途中で母親が畑から帰ってきて、「もっと離れたところからテレビを見なさい」とよく注意されていた。当時、刑事ドラマの『西部警察』が大好きでよく見ていた。

その日も母が30分くらい前に帰っており、僕は畳に横になり『西部警察』を見ている最中だったと思う。テレビの画面がグニャグニャに揺れて見えた。“あれ、おかしいな、地震かな”と思い、目を擦(こす)ってからもう一度画面に視線を向けた。

しかし、画面は先ほどと同じようにグニャグニャに揺れており、家のタンスも揺れているように見えた。でも、床に手をつくと床は揺れていない。“地震じゃあないかも”と思ったと同時に、急に怖くなってきた。僕は怖くなったので、目を閉じた。

すると、今度は目を閉じているのに体がグルグルと回っている感覚に襲われ、余計に恐ろしくなった。そこで、台所で夕食の準備を始めていた母親のところに行こうとした。

ところが、立ち上がることはなんとかできたが、真っすぐに歩けなかったのだ。壁づたいにゆっくりゆっくり歩き、母の元にたどり着き、こう言った。

「真っすぐ歩かれへん。ふらふらする。何かおかしい、怖い」

母はいつもと様子が違う僕に驚いたのか、料理の手を止め、畳の上に僕を寝かせた。

横になっても天井が回っていたので、すぐに起き上がった。母は祖父母の部屋に置いてあった血圧計を取ってきて血圧を測ったり、熱を測るなどしたが問題はなかった。そのふらふらする症状は、次の日の朝までおさまらなかった。