映画『ふたり』赤川次郎 原作 大林宣彦 監督 松竹芸能 一九九一年

一生懸命生きて行く、人生の愛おしさ

人生を抱きしめたくなる映画である。そして、なんと自分は(時間的に)遠くへ来てしまったのだろうかと昔を惜しむ気持ちが湧きあがる作品である。赤川次郎氏の小説を映画化したもの。

二人姉妹の姉であるしっかり者の「千津子」(中嶋朋子)が交通事故で死んでしまう。母「治子」(富司純子(ふじすみこ))はそれが原因でノイローゼになり、父「雄一」(岸辺一徳(いっとく))は北海道へ単身赴任して不在であるため、妹「実加」(石田ひかり)は母を支えようと努力する。

そしてある事件が起こり実加が苦境に立った時、姉、千津子の亡霊「おばけ」に助けられる。その後、頻繁に姉のおばけに出会い、いろいろな事を相談するようになる。

やがて美加は成長し、かつて姉の知り合いであった智也(尾美としのり)に出会い、ほのかな想いを抱くようになる。

なんでもできるお姉ちゃん。死んでしまった「おばけ」のお姉ちゃんに頼って生きてゆく主人公の心の成長の過程が描かれている。そしてやがて実加が成長した時、お姉ちゃんは出て来なくなる。

「人生は楽しいことも辛いこともすべて自分で持っていかねばならない。」実加の親友である旅館の娘「真子」(柴山智加)の言葉である。彼女の現実をしっかり観て、気丈に生きていく姿、そして親友を気遣うやさしさも素晴らしい。

振り返って自分の事になるが、人生はなんて素晴らしいのだろう、なぜ自分はこの煌めく星のような人生を粗末にあくせくと生きているのだろうという反省と、生きるということのもっとも大切な、感じなければならない部分を疎かにしていることに気づかされる。

こんなに心揺さぶられる映画を見ると深い反省と更なる焦りが実は湧いてくる。もっと人生を噛み締めて生きて行くべきだと思うのである。

原作・赤川次郎、監督・大林宣彦、主題歌「草の想い」は作詞が大林宣彦氏である。「新・尾道三部作」の一つであり、尾道の坂や港町が映し出され懐かしさを感じさせる風景である。

人は二度死ぬ。一度目は物理的な死、そして二度目は人の意識から忘れ去られることでの死。姉は「おばけ」ではなくなったけれど、妹の心の中にずっと生きていく。そのために、妹は姉のことを書き留めようとする。

また、智也が船で旅をする仕事に就くことになり、実加に一緒に来てくれないかと問う(これはプロポーズでもあるのだが)。そう言った時、実加は「私は心の中でどこへでも行けるし、誰とでも会える、だからどこへも行かずにここにいる」と答えた。

この部分は原作者赤川次郎氏の心情を表現したものだろう。「遠くにいても近い人、近くにいても遠い人」これは大林氏の良く使うフレーズだ。『あした』(赤川次郎 原作、大林宣彦 監督、東宝、一九九五年)にも同じ言葉が出てくる。人と人との関わりとはそういう面がある。

世の中には気丈な人たちばかりが暮らしているわけではない。弱くても、不器用でも、一生懸命に生きている人がいる。それを知ることの大切さ。これもこの映画の一つのテーマだ。