これといった手入れもされず放置されたミカン畑は雑草が生え放題で、地面には熟し切った実が採り手もなく樹から落ちて腐乱した香を放っている。荒れたミカン畑を過ぎ、雑草と落ち葉で滑りそうな土手をよじ登ると細い木々の生い茂る雑木林が現れる。

雑木の生い茂る林に入り、木々に囲まれると、落ち葉と湿った土の匂いが鼻をつく。木々の間を縫うように歩くと、陽の光の差さない林の中はどこか懐かしい匂いがする。方向はもうわからない。闇雲に歩き続けるともっとわからなくなる。

木々のその奥へ、山の奥へ奥へと迷い込むと流石に不安になる。来た方向を振り返るがもう戻れない。どちらに向かって歩いているのかもわからない。どうやら迷ったらしいと思い始める。

見知らぬ山中で遭難したような気分になり、ますます不安になる。しかし、ここは自宅から歩いて十分と離れていないのだからと思い直す。と、突然目の前が開けて小さな小道が現れる。道は両側に生い茂る雑木に遮られて暗い。

木々の間を縫うように下る緩い坂道には人の通った気配がない。けもの道のような狭い道には落ち葉が積もり、踏むとカサカサと音を立てる。人気はない。ただ、人の手で造られたと思しき小道を辿るのは妙な安心感がある。

それは、子供のころに辿った山の中の小道に似ていると思い、そう思うと少し安心し、この道を辿れば人里に出られると思って歩き続ける。道の勾配は徐々にきつくなる、と、歩く速度も速くなる。

そんな感じで坂道を下ると、道は突然どこかの屋敷の敷地内になり、そのまま歩くと古い屋敷の庭先に入った。

山から続く小道の先に唐突に現れた大きな屋敷とその庭は個人宅の庭先といっていいのかどうか迷うほど広く、庭木も剪定され、芝も綺麗に刈られている。屋敷にもその庭先にも人気はない。

 

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