これ以外にまだ多くの疑問が出されているが、編纂の意図を知った上で陰陽の原理をあてはめて考えれば、それらは解くことができるし、その答はすべて本文に書いた。

『古事記』を正しく読み解く上で大事なことが三つある。一つ目は、『古事記』が書かれた理由について、企画立案した天武天皇の立場に立って探究することである。

実は、従来の『古事記』関連本のほとんどが、この作業を何ら行っていない。『古事記』は将来にわたる天皇のあり方とその原理を、神話の中に組み込んだメッセージ性の強い史実的な物語である。

そのメッセージを読み解くためには、『古事記』プロジェクトの中心人物である天武天皇が置かれた状況と当時の日本の歴史的、地政学的な状況を調べる必要がある。人は自分が置かれた環境から問題意識を持ち、物事を考える動物だからだ。

歴史的事象を天武天皇の目線から見ることによって、彼の気持ちを推し測ることが可能である。そうすれば、より精緻な解釈が可能となり、様々な疑問が氷解する。そのような問題意識から、第一章では当時の史実を踏まえて、天武天皇の心情を捉えることを試みた。

二つ目は、『古事記』と『日本書紀』はそれぞれまったく別の意図で編纂されたものなので、比較検討をしてもあまり意味がない、ということである。

共通している部分とそうでない部分は分かるかもしれないが、そこから『古事記』に込められたメッセージを解くことはできない。同じような内容の映画だからといって、両方を比較して論じても、それぞれのテーマに迫ることができないのと同じ理屈である。

記紀という言葉があるように二つをセットで捉えようとする従来の流れがあるが、製作意図がまったく違う両者を比較しても、本質的なことは結局何も分からないまま終わってしまう可能性が高いし、実際にそうなっている。

 

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