はじめに

日本はどのような国か。天皇とは何か。天皇はどうあるべきか。この問いの答えは『古事記』の中に書かれてある。なぜ、それが今まで読み解かれなかったのか。イザナキ、イザナミの国づくりの際の会話と「ヒルコ」を誤って解釈してきたからである。

従来の『古事記』関連本には、「私の出っ張った部分とあなたのへこんだ部分」の会話を性交の意味と捉え、「ヒルコ」を女から声を掛けてはいけない教えとか、近親相姦をしてはいけない教えといった珍解釈が堂々と書かれていた。実はそこに『古事記』全体を読み解くキーワードが隠されていたのである。

「出っ張った……」というセリフと共に、イザナキ、イザナミが天之御柱(あめのみはしら)をそれぞれ左右に回る場面がある。

「すべての根源は回転」とギリシアの哲学者アナクサゴラスは説いた。根源、つまりエネルギーの発生する原理を説明している。

男であるイザナキが陽、つまり「+」エネルギーを表し、女のイザナミは陰、つまり「-」エネルギーを表している。

この世界は+と-のエネルギーによって動いている、つまり陰陽の原理を説いている場面であり、それは統治の原理にも使えること、さらに陰陽を逆にしてしまうと「ヒルコ」、つまり失敗すると言っている。

詳しくは本文を参照して欲しいのだが、その原理が分からないまま『古事記』を読んだとしても、字面だけを追いかけることとなり疑問が疑問のまま持ち越されることになる。

今まで多くの『古事記』の関連本が出版されているにも関わらず、様々な疑問が解かれることなく現在に至ったのは、そのためである。

疑問の主だったものを挙げると、ほぼ同時期に二冊の史書がなぜ編纂(へんさん)されたのか、天地開闢 (かいびゃく)神話が『古事記』と『日本書紀』で違うのはなぜか、なぜ『古事記』は神で『日本書紀』は尊(みこと)なのか、なぜ女性神の天照大神が天皇家の祖神なのか、なぜ大国主神 (おおくにぬしのかみ)の出雲神話が『日本書紀』に書かれていないのか、国譲りは本当にあったのかといったものである。