シニア世代のための「万葉集百人一首」
二十二 き 85
君が行き 日(け)長くなりぬ 山尋ね
迎へか行かむ 待ちにか待たむ
磐姫皇后(いはのひめのおおきさき)
訳 あの方のお出ましは随分日数が経ったのにまだお帰りにならない。お迎えに行こうか、このまま待ち続けようか
【注】1 磐姫皇后=仁徳天皇の皇后。激しい嫉妬心の持ち主として名高い
【注】2 君が行き=ガは連体の関係を示す助詞。「行き」は名詞
【注】3 山尋ね=迎えの枕詞。山たづ=にわとこ、神迎えの霊木
【注】4 尋ね=原則として男の行為
【注】5 待つ=普通、女の行為
二十三 き 10
君が代も 我が代も知るや
磐代(いはしろ)の 岡の草根を いざ結びてな
中皇命(なかつすめらみこと)
訳 皇子の命も私の命も支配している、岩代の岡の草根をさあ結びましょう、結んで互い
の命の幸を祈りましょう
【注】1 中皇命=間人皇女か
【注】2 君が代=男性への尊称。ここは中大兄皇子を指す。「代」は齢の意
【注】3 知る=支配している。やは間投助詞
【注】4 岩代=和歌山県日高郡みなべ町岩代。古代、草や松の枝を結んで旅の平安を祈ることがあった
【注】5 いざ=人を誘う俗語
二十四 き 488
君待つと 我(あ)が恋ひ居(を)れば
我がやどの 簾(すだれ)動かし 秋の風吹く
額田王(ぬかたのおほきみ)
訳 あの方のおいでを待って私が恋い慕っていると、我が家の戸口の簾を動かして、ただ秋の風が吹いています
【注】1 額田王が近江天皇を思って作った歌
【注】2 額田王=万葉初期の代表歌人。天武天皇に召されて十市皇女(とをちのひめみこ)を生む
【注】3 近江天皇=第38代天智天皇
【注】4 簾=中国の「珠簾」を模して小玉を貫いた簾か