二十五 く 575
草香江(くさかえ)の 入江にあさる 葦鶴(あしたづ)の
あなたづたづし 友なしにして
大伴旅人
訳 草香の入江には餌を漁る葦鶴の姿が見えるが、ああ、心許ないことだ。共に語り合える友もいなくて
【注】1 草香江=難波江の東端生駒山の西麓。同じ地名が博多湾西部にもある
【注】2 上3句は序。同音で「たづたづし」を起こす。「たどたどし」の古形。心もとなく不確かで不安定な心を表す語
二十六 く 3447
草陰の 安努(あの)な行ゆかむと 墾(は)りし道
安努は行(ゆ)かずて 荒草(あらくさ)立(だ)ちぬ
作者未詳
訳 草深い安努に通じようと開いた道なのに、安努には行かずにいて荒草が茂ってしまった
【注】1 草陰=「安努」の枕詞。安努は地名。駿河国か
【注】2 「安努な」のナ=格助詞ニの転か
【注】3 墾りし道=新たに開いた道
【注】4 安努は行かずて荒草立ちぬ=作者が安努へは行けなくなったので道が荒れたことをいうか
二十七 く 4381
国々の 防人集い 船乗りて
別るを見れば いともすべなし
河内郡上丁神麻続部島麻呂(かふちのこほりのかみつよほろかむをみべのしまま)
訳 国々の防人がここ難波津に集まり、船に乗って別れるのを見ると、大変やるせない
【注】1 船乗り=動詞「船乗る」の連用形。「船に乗る」が複合する際フネがフナに転じて助詞ニが省略された
【注】2 いともすべなし=明日は我が身というどうしようもないやるせなさを表す
【注】3 上丁=一般の兵士をいう
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