戻ってから一番に病院のパンフレットを見て電話をかけた。木村よし子という人が入院していないかと聞いたが、お身内ですかと聞かれた。身内ではなく知り合いだと答えると、親族の方でないとお知らせできませんということだった。確かに親族なら電話で確かめたりしないだろう。はたして出かけていって面会はできるのだろうか。
田舎に戻った孝介はすぐに風景に溶け込むことができた。ここが俺の居場所かと身のうちで納得するものがある。田植えから始まり、野菜の種まきから収穫、出荷。考えて動けばいくらでもやることはあった。長い空白などなかったように田や畑の中で体を動かすので気持ちを集中できた。
トラックから通い箱を降ろして土産物やのホールに並べる。
「この小さいきゅうり、新鮮なのよね」
「小ぶりなのがいいの。茄子もお漬物にちょうど良いわ」
「帰るときと思っていると、いつも売り切れちゃうの」
散歩帰りの女性客が代金を孝介に渡す。
朝、取ってきた野菜を三百円から五百円くらいの値になるように袋詰めする。トラックでここまで運び、売り子もやる。
「フォレスト・ビラッジ」はアルプスに続く山の斜面を削って建てられた会員制のホテルだ。連泊する客が多く、昼間はハイキングに出かけたり、テニスやゴルフに行く。温泉に入って山の幸を食べるのを楽しみに来る人も多い。
【前回の記事を読む】想定外の告白に頭が混乱…「ねえ、もう一回して」とねだられ…