「そうじゃない。私はただね、彼らの本当の気持ちを把握して業務に反映させたいだけなんだ。風通しの良い職場を作るためにも彼らの本音が知りたいんだ。私に向かって表立って文句を言う者はいないからね」

「そうですよね。そういうことならわかりました。あたしが見たこと聞いたことの全てを課長に報告します」

有田の表情から硬さが取れ、警戒心が薄れていった。

「ではよろしく頼むよ。来週の着任準備は私の方で進めておくから、今の仕事はきっちり片付けておいてくれ」

「はい! よろしくお願いします!」

佐伯は立ち上がり、有田に手を差し伸べ握手を交わした。

有田が応接室を出ようとした時、佐伯が後ろから声をかけた。

「有田さん、今日の夜は何か予定が入っているか?」

「いえ、今日は何もありませんが」

「そうか。じゃあ、もし良かったら一緒に食事でもどうだ? 刑事課着任の前祝いとして」

「本当ですか? 嬉しいです! よろしくお願いします!」

有田は満面の笑みで答えた。

「よし。まずは帰宅したらしっかり休んでな。非番は寝ないと体にこたえる。場所はあとで連絡するから携帯の番号を教えてもらえるかな。私も事件が入ると行けなくなるから」

「はい、ちょっと待ってください」

有田は携帯を取り出し佐伯に番号を教えた。

「じゃあ、あとで。楽しみにしているよ」

佐伯はそう言うと、頭を下げる有田を後にして応接室を出た。とりあえずゼウスの言う通り彼女を使ってみるか。佐伯は有田から聞いた番号を「S」として登録した。

「では有田さん、刑事課着任を祝って乾杯」

「ありがとうございます」