プロローグ
私が高校に入学したのは、世界的な若者の叛乱の季節の後であった。1968年のフランス五月革命、アメリカのベトナム反戦や公民権運動に結びついた学生運動、日本でも東大安田講堂攻防戦、全共闘運動の全国の大学での展開など世界中でスチューデント・パワーが吹き荒れていた。
ところで、私は、茨城県北部の栃木県に近い田舎で生まれた。中学校では、日曜日にラジオで放送される『ポップス・ベスト10』を聞くのを楽しみにしていたふつうの少年であった。世界中で起こる出来事については、新聞などでよく知っていたものの、自分の実感として受け止めることまではできていなかった。
私は、1970年に高校に入学した。毎朝、高校に登校するときに、軽音楽部の演奏する『バック・イン・ザ・U.S.S.R.』が耳に飛び込んできた。現在でもこの曲の最後のリフレインが鮮やかに耳によみがえってくる。
ここで“U.S.S.R.”というのは、ソビエト連邦(現在のロシア)のことである。当時は、ソビエトは最初の社会主義国として、まだ知識人などにもユートピアをふりまくことができていた。この曲は、ビートルズらしく反体制的な気分を見事に反映していた。
さて、私たちは高校紛争の直後に入学したおかげで、その成果をさまざまに享受することができた。その中でも「自由」の大切さを心ゆくまでかみしめることができた。実際、教師たちは、高校紛争の余波により、生徒に義務や規則を振り回すことは一切なく、生徒の自主性を重んじてくれた。このことは、その後の私たちの人生にも大きな意味を占めた。