「嬉しいわ、本当に夢のようだわ」
相手に反応はなかったが、言葉が堰を切った。
「本当にあなたに会える日が来るなんて」
茉莉に向けた顔を典子は懸命に頬笑ませ言った。
「まだ信じられないわ」
茉莉は全く表情を変えなかった。数メートル置いてまっすぐに据えられた眼は、敵意とも思える冷たい光を潜めているようにも思えた。
「夢のようだけど……夢ではないわね」
一瞬頭をよぎった忌まわしいものを振り払おうとしたはずの声も、途中から消え入りそうになった。
青いシャドーを引いた目は瞬きも見せなかった。真紅のルージュをひいた唇はキリッと結ばれたまま、一言も発しなかった。重苦しい沈黙が流れた。
それは透明な壁になって本当に二人を隔てしまうのではと思えた。どれほど長い間、この日を願っていただろうか。それがこんな惨いものになるとは。
―一体どうしたと言うのだろうか、別離の間にマリは心まで変わってしまったのだろうか?―
―そんな事があるはずがない無いわ,マリが別人になってしまうなんて。―
典子は自問した事を即座に打ち消そうとした。しかしあれからのマリの事は何も知らないのだ。不通だった時間の方が遥かに長いのだ。きっとマリも同じなのだ、マリもあまりに唐突の事に、私の変わりように当惑しているのだ、という思いが救いのように浮かんだが、それも波にのまれるように消えていった。