第一章 ミス大洲の夏

テーブルの上には愛媛県の広域観光用のパンフレットがたくさん並んでいる。広域観光企画協議会が結成され観光客誘致のために作成されたもので県内各自治体の自慢を掲載している。

その男性は愛媛県の各地のパンフレットを手に取り見ていた。この男性も愛媛に行ってみたいという気持ちになるだろうか。

間近に見るその男……おおきい、確かにおおきい。

わたしも女としてはおおきいほうであるが、この男はむちゃくちゃおおきくて圧倒されそうな気がした。腕や太股は丸太みたいに太く、胸なんて盛りあがってTシャツを押し退けているように感じる。

その身体はTシャツで隠れているものの洋画にでてくるムキムキマンのような身体つきをしているものと思っていた。いったいどこの男性なのだろう、仕事はなにをしているだろう。大洲の街でそんなに見かけないほどおおきい。仕事先で役人をよく見ているが、彼は違うだろう。

なにかのプロスポーツ選手なのか。前に立たれたらわたしなど見えなくなってしまうほどおおきな男性だった。三十代かな、いや、四十代かな。四十代前半に見えるような気がする。

非常に興味が湧く男だった。このようなイベントの最中に自分の仕事を忘れて目の前に現われたその男性をここまで観察する自分自身に驚いていた。どうしてなのか、なにかありそうな予感がした。

いつのまにか、知らないうちになにか強烈な展開に引きこまれそうな予感がした。意識したのか自然とその男の前にあるテーブル方向に笑みを浮かべ近づいていた。眉間にしわを寄せて難しそうな顔をしている……なにを考えているのだろう。

取りあげたひとつのパンフレットを見ている。その男がパンフレットを読まないで手を休めたときにおたがいの顔があがり視線があった。僅かに会釈しながら微笑む男性。

お返しに笑みを浮かべうなずいた。グッドタイミングであった。声をかけた。このようなときは一番無難な質問である。

「どちらからおいでになったのですか?」 

その男は笑みを浮かべこたえた。