第一章 ミス大洲の夏

八月二十一日。暑い日々が続く……夏雲が朝早くから顔をだしている。

初日の今日はしまなみ海道生口島と大三島を結ぶ世界最長の斜張橋である多々羅大橋……大三島側のふもとにある多々羅しまなみ公園で愛媛県への観光客誘致のイベントである。イベント会場は各市町村の企画の準備が整い、あとはしまなみ海道を訪れたお客さんを待つばかりであった。

南東側のガーデン護岸からは隣の島である生口島、遠くに岩城島が見える。さらに瀬戸内のちいさな島々が一望できる。島の間をちいさな船やおおきな船が行き交う。愛媛県西の山間の街、大洲市から来ている恵利子はよく見ききする瀬戸内の風景そのままと思っていた。愛媛県といっても東西に長く、東地区を東予、松山周辺を中予、宇和島周辺を南予と称している。

さしずめ大洲市は南予になる。間近に見える多々羅大橋がみごとな人工美を映している。その橋のむこう側は、生口島で西日光の名前がある耕三寺や有名画家の記念館がある。

北島恵利子……二十七歳、ミス大洲である。今日から三日間のメインの仕事は松山地区広域観光企画推進協議会の主催によるワイドエリア松山二十二のキャンペーンである。ミス大洲の制服は、赤い服に衿などを太めの黒の縁取りをした服装である。赤と黒がマッチしたキャップも被る。白いたすきに黒字でおおきくミス大洲と表示している。

そよ風があるものの暑いのはしかたない。一緒にキャンペーンをするミス松山の山中裕子さんはすこし若く二十五歳。元気いっぱいの姿はたのもしい限りである。まだ午前中であり人影もまばらである。お客さんは、まだ見たい、ききたいと元気のある顔をしている。子供を連れた家族や、若い男女の連れが多い。会社ぐるみで来ているような団体さんも見受けられた。

目の前を通りすぎてゆくお客さんはパンフレットを持って帰り十分に見たら愛媛県に来てくれるかも知れない。笑顔で応対しなければならない。暑い一日、体調を整えねばならない。大丈夫なのだろうか。暑い最中に、笑顔で来てくれるお客さんにお話をしなければならない。

元気をだせ、ミスに選ばれたのではないか。街を代表するミスになったのだから失礼のないように一生懸命にやらなければならない。この時間も青春の一ページではないのか。がんばれ、もうひとりの恵利子が声を大にして叫んでいる。