平成十年十一月にミス大洲に選ばれてもうすぐ一年が来る。あとすこしで残り半年になる。観光誘致を含め県内の幾多のイベント行事に出席し、いままでおおきな問題もなく過ごしてきた。ミスの拘束期間は来年三月までである。

北西の風がすこし吹いているが、暑さがうなぎ上りになる午前十一時ごろだった。運動会でつかうような簡易テントの下でお客さんを待っていた。風ですこし乱雑になっているテーブルに並んだ愛媛県各地のパンフレットを整理していた。お客さんはまだ多くなくテーブルの前もまばらであった。

ふと目をあげると南東側に設置されたイベント広場にあるステージのむこうからバッグを持った一際背の高い男が近づいてくるのが見えた。ステージの前の広場には簡易な白いテーブルや椅子が並んでいるが、その男を見るとテーブルや椅子がほんとうにちいさく見える。その男は濃紺のTシャツに身を包んでいたように見えた。下は半分のスパッツ風であった。

ずいぶんおおきな男性だわ……どこの男性だろう。さらに近づくその男を見て異様な感じを受けていた。ばかでかい身体、肩幅が広く、すくなくとも身長は百九十センチに近いのか。がらに合わない青のバンダナを鉢巻きのかわりにしている。

その男は近くのテーブルまでやってきていた。そしてなにか書いている。あっ、愛媛県がお願いしているアンケートにこたえているみたい。照れながら、くじを引いている。三等があたったみたいだわ。愛媛県産のかつお節とワンカップのお酒をスタッフからもらっている。すこし照れているみたいだわ。

大男なのに照れているようすを見て苦笑いをしていた。やがてその男はかつお節とワンカップを持参のスポーツバッグにしまうと恵利子たちの前のテーブルに来た。

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