第一章 ミス大洲の夏

その男性は腕を組んで考えていたようだった。もうすこし話をしたい、ほかに共通しそうな話題はないか。なにかないか、そうだわたしの街大洲市を宣伝することに決めた。

「あの、大洲市にも機会があれば是非来てください。伊予の小京都といわれて素晴らしいところはたくさんありますよ」

「大洲市ですか。機会があれば寄せてもらいます。記憶で川のそばに大洲城跡があるのを知っています」

「大洲城跡をご存じですか?」

「実際行ったことはないのですが、たしか川のほとりの森に囲まれた石垣が残っていますね。加藤六万石のお城ですね。天守閣はなくちいさな楼があるのを覚えています。それから不思議な肱川(ひじかわ)嵐もあるのでしょう。街全体が霧に包まれる現象ですね?」 

大洲市のことをよく知っているのだわ。うれしい気分になった。

「そのとおりです。よく存じで……」

「城跡や不思議な気象に興味がありますから……」

「そうですか……」

「ありがとう。じゃ、がんばって今治まで走破しますよ」

「すみません、わたしは北島恵利子といいます。あの、お名前は? よかったら教えていただけませんか?」

あれっ、どうしてわたしの名前を言ったり、名前をきくなんて誰が言ったのよ。自分じゃない知らない誰かに言わされているみたいだわ。

「名前ですか。誰も忘れられない名前です。青い木の青木です」

姓だけではものたりない、名前はなんていうのかしら、きいてみたくなっていた。

「すみません、フルネームをできたら」

「フルネームですか。青い木の青木治郎です。治めるに普通のろうですよ」

青木治郎さんか、やさしそうな素朴な名前である。忘れないように頭のなかにきっちり収めた。ますますときめく恵利子だった。

青木は軽く会釈をしてテーブルをあとにした。もう行ってしまうのかしら、残念だわ。もっともっとお話しがしたいのに。あっ、Tシャツの背中にプリントしたローマ字が見える。これはなにかの参考になる。すこし小走りになり追いかけた。