薬師寺(やくしじ)
奈良時代に創建されるも、後世、火災や兵火に遭い,東塔以外はすべて焼失した。昭和に金堂・西塔・中門、平成に大講堂が復元された。
〈金堂の正面に立つと、左手に色鮮やかな西塔、右手に古びて貫禄のある東塔が見える。…… 新しさと古めかしさ。それが奇妙に調和していて、なんともいえず魅力的だ 〉奈良に来る前に五木寛之著『百寺巡礼 第一巻 奈良』を読んで、この光景を楽しみにしていたのだが残念である。国宝の東塔は縦縞模様の巨大な建物に覆われ、解体修理中であった。
拝観受付で「東塔水煙特別展」があると言われた。閉門まで時間がないので一般券にしたのだが、このことだったのだ。「水煙」とは相輪上部の火焔型の装飾で、音楽を奏でる飛ひ 天てんが透かし彫りで表現されているという。
金堂、大講堂の順に巡る。
金堂には本尊・薬師三尊が祀られ、大講堂には弥勒如来と4体の菩薩が安置され、それを四天王が取り囲んでいる。
大講堂の後堂には仏足石(国宝)が安置され、その両側に釈迦十大金堂弟子が並んでいる。この仏足石はインドの仏足跡図を基に奈良時代に造られたことが銘に刻まれているという。
仏像は釈迦入滅後も400~500年間は造られず、インドではこの間、人びとは釈迦の遺骨を納めた仏塔や、足の踏跡を図にした仏足跡図などを礼拝していた。
東回廊の外に出て、東院堂(国宝)に立ち寄る。ここには聖観音菩薩(国宝)、四天王が祀られていたが、聖観音には「御分身」とあった。
参拝を終え、東院堂を出ると慌ただしく片付けが始まっていた。閉門が迫っている。
中門からふり返れば金堂も閉門の準備をしている。扉の奥の薬師三尊に遠くから手を合わせる。ゴーンと鐘が一つ鳴り、閉門時間が来た。金堂の扉がいっせいに閉められた。こんな光景はめったに見られるものではない。
夕暮れ間近、涼しい風が吹き、私の心は清すが々すがしさに満たされた。
【前回の記事を読む】青空の下、金堂、五重塔が並び、近代的な建物はなく、平安の昔そのままの風景があった