〈史に告白したい! この史への気持ちを。でもでもできない、情けないけど〉知之は「ずっと好きだ」この言葉をぐっと飲みこんで言った。

「史、いつでもなんでも聞くぞ」

「うん」

二人は、いつもの十字路で右に左にそれぞれ帰路についた。卒業式が近づいたある日、知之が声をかけてきた。

「おう、史。制服の第二ボタン欲しくないか? お前にやってもいいぞ」

「なにそれ、いるわけないでしょ」

「そうかあ、欲しいという子が何人もいるんだけどなあ、もし欲しくなったら言えよ」

知之は数人の友人と合流し談笑しながら帰っていった。史は知之の後ろ姿を目で追いながら、ついそっけない返事をしてしまったことを、少し悔やんでいた。

その夜、知之は第二ボタンを外し机の引き出しにしまった。史に渡したいという強い気持ちがそうさせた。

いよいよ卒業式の日がきた。史は涼介に心を込めて別れの会釈をした。涼介は何かを言おうとしたが言葉にならない。会釈をして通り過ぎた。〈振り向くことは許されないこと〉涼介の頬に涙がこぼれた。

史は友人と別れを惜しみながら、校庭を後にした。青春というかけがえのない時期を過ごした学舎は、桜や新緑や紅葉など、折々の季節によくマッチした場所だったなと感じながら歩を進めていると、校門のあたりから声がした。知之である。

ゆるやかな下り坂を小走りに近づいてきて「おう、史、いよいよだな。お前の答辞よかったぞ、ぐっときた、みんなそうゆうとる。お前と俺は進む高校は異なるけど、忘れるなよ」