九十九髪

「宗易殿、良くお越しくださいました」

「宗朋様、本日はお誘いありがとうございます。二年前『松屋三名物』を拝見させて頂きました折、思い残すは『九十九髪茄子』のみと申し上げましたことを、心にお留置き頂き、本日のお計らい賜りました事、感謝申し上げます。

しかも本日は、隆仙様の相伴をさせていただきます。〝名物茶入賞翫の客振り〞を学ばせて頂ける事、茶人冥利に尽きるというものでございます」

隆仙が言葉を繋いだ。

「ところで、我々堺の納屋衆が最も頼りにさせて頂きました三好実休(じっきゅう)様がお亡くなりになられて、はや三年となりました」

宗易が応える。

「私の謡の師宮王三郎様も、手を痛められ小鼓を辞められてからは、名を『三入(さんにゅう)』と改め、実休様が亡くなるまでの二年間、御伽衆をしておられました。残念ながらその戦に巻き込まれ同じく亡くなられました」

「そうでしたか。その実休様の跡を継がれた、弟の安宅冬康様までも昨年の五月に亡くなられました。さらに惣領の三好長慶様が七月に亡くなられた今、堺のみならず畿内の安寧秩序は、お二人がこれからお会いになる松永久秀様お一人による所となっております」

宗朋の言葉に隆仙と宗易は大きく頷いた。

久秀の茶座敷は四畳半、床は北向きであった。囲炉裏には、『真の釡』が鎖で釣られてある。床の間には、玉澗(ぎょくかん)の唐絵『煙寺晩鐘』、その下に、夢にまで見た『九十九髪茄子』が飾られている。