朝鮮渡海

真っ白な不思議な空間であった。壁も床も天井も真っ白な紙が貼られ、柱が見えない。まるで雪の洞穴のようであった。しかも、やや黄色味を帯びた床が暖かい。

「何故床が暖かいのですか」

宗易は感じたままを茂勝に尋ねた。

「オンドルと言いまして、竈(かまど)で炊いた煙が床下を通っているのですよ。両班の様な身分の高い貴族や金持ちの商人しか使用できません。床は上下に石が敷いてあり、その間を煙が通ります。上の石に漆喰が塗ってありまして、その上に油を染み込ませた厚紙が貼ってあるのです。

朝鮮国は我が国より遥かに寒いので、家は冬用に作られているのです。この辺りは、慶尚道と呼ばれる半島東南部地域の最南端ですから、朝鮮国では一番暖かい地域ですが、それでも博多より寒うございます。その為に部屋が小さく、天井も低くなっております。客は皆外から直接部屋に入ります」

「確かに狭いが、狭さを感じさせない不思議な空間ですね。何か懐かしい思いが感じられます」やがて都護が入ってきた。

「お待たせしました。まだ朝晩の冷え込みがありますので、今日もオンドルを入れてあります。千殿は初めてですか」

茂勝と同じ年ほどであろうか。使用人が「ソバン(脚付きの小盤)」に茶器を載せて、それぞれに持ち出した。