「そうか。待ち遠しいなあ」
「もう少しだけ、待っていてくださいね」
「楽しみね。リリーちゃん、今日はどこまで?」
「向こうの雪原までです」
「あら、それじゃあ、気をつけて行かないと」
リリーが首をかしげると、ふたりは、雪原の近くの森に大きなオオカミがいることを話してくれました。時折、森の入り口や雪原まで出てくるそうです。
「薪売りのおじいさんが出くわしたって話よ。静かに去っていったって言うから、悪いオオカミではないと思うけれど」
「オオカミは夕暮れ時に動き始めるから、今の時間は大丈夫だろうさ。それに、もしかしたら『冬の神様』かもしれないしな」
「冬の神様って、あのお話の中の……?」
それは、村で語り継がれている物語に出てくるオオカミのことでした。冬の神様は不思議な力を持っており、秋が終わる頃に、この村や周辺の地域に冬を呼ぶのです。この村の冬が長いのは、冬の神様が森にいるからだといわれています。
「リリーちゃんも気をつけて、早めに戻るようにね」
「分かりました。今日は、おやつの時間までに帰ってくるので大丈夫です。それに、フルールも一緒ですから」
ふんっ、と力強く鼻を鳴らすフルールに、夫婦はくすりと笑いました。
「そうだな。フルールがいるなら安心だ」
「たのもしい相棒がいていいわね、リリーちゃん」
夫婦に手を振って別れ、リリーはさらに歩きます。
「オオカミ……冬の神様ですって。ねえ、フルール」
フルールは、きりりと胸を張っているように見えました。それは、まるで「心配しないで」と言っているようです。